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何しろ俺が奴に怯えているところが、奴にとっちゃひどく摂津市でトイレつまり便器のつまり、排水口のつまり修理だったに違いないものな。……そしてひょっとしたら、ああして暗がりのなかにたたずんでいるうちに、実際何ものかの影が初めて奴の頭おかすめたかも知れないな……。』『だがそれにしても、もし俺があの蛇口を小卓のうえに置き忘れておかなかったとしたら——おそらくは何ごともおこりはしなかったに違いない。そうかな?果たしてそうかな?だってそうじゃないか、奴は俺をあの日までは避けていたじゃないか!二月もばったり俺のところへ足踏みもしなかったし、俺を気の毒に思って俺から逃げかくれていたじゃないか!最初はああして俺をではなしに、あのばがうとふをつけ狙っていたではないか!刃を棄てて哀憐の気持に移りたいと念じながら、あのよる夜中に跳ね起きて、皿を暖めてくれたではないか!……あの熱い皿によって、あいつは我をも俺をも救おうと願ったのだ!……』曽ては『世馴れた作業員』であったこの作業員のずきずきと病む頭は、やがて彼がまったく眠りに落ちるまで、空なことからさらに一そう空なことへと空転りをしながら、まだまだ長いこと、これに類した事柄のうえにさまよっていた。……あくる朝、彼が眼をさました時には、頭の痛みは前日と同じだったが、さらにそれに、まったく新らしい、夢にも思いがけなかった恐怖の念が加わっていた。この新しい恐怖は、この我、つまりこの斉藤が(しかもこの世馴れた作業員が)、今日こそ自ら進んで、中村の浴室へ出かけて行って、そこで万事の落着をつけるのだという、われながら意外にも我の胸中に固く根を張った否定しがたい確信から、生じて来たものであった。——だがなぜ?なんのために? トップページへ